「ポメラ」開発担当者インタビュー

2018年で発売10周年を迎えたデジタルメモ「ポメラ」
「ポメラ」はどのように誕生し、これからどこへ向かっていくのか
「ポメラ」の初代モデルDM10の開発担当者である立石にインタビューしました

立石 幸士(たていし たかし)

1972年生まれ、1996年東京電機大学卒業後、1998年キングジム入社。
2008年に自身が企画したデジタルメモ「ポメラ」が大ヒット。
現在は株式会社キングジム執行役員兼グループ会社の株式会社ぼん家具取締役社長。

『自分が必要』だから作った。メモ専用端末として生まれた「ポメラ」

「ポメラ」の初号機 DM10

「ポメラ」を開発する前は、B5サイズのノートパソコンを持ち歩いていました。会議や打ち合せのメモを取るのに使っていたのですが、バッテリーがあまり持たないことや、本体とACアダプターを合わせると結構かさばってしまい、外出するときに邪魔になることが不満でした。
メモを取るだけなんだから、電子辞書くらいの大きさで、液晶画面ときちんとしたキーボードがついていて、コンパクトな『なにか』があればいいのにと思っていました。その思いが「ポメラ」の初号機を開発するときのコンセプトに繋がっています。そこから、液晶のサイズはこのくらい、折りたたみ式のキーボード、などの商品の完成イメージを膨らませていきました。

最初の壁は『パートナー探し』「ポメラ」が開発会議に通るまで

「ポメラ」の商品コンセプトが決まってから、この商品を一緒に開発してくれるメーカーを探し始めました。商品化を決定する開発会議に議題を上げるには、当然、製造ラインの確保や、コスト、開発期間など実現性も含めた資料を提示しなければいけません。
しかし、このような商品は今までにはない試みということもあって、メーカーにも断られ続けていました。何社も何社も打診を続け、ようやく「面白い企画だ!」と賛同してくれたメーカーが見つかり、コストや仕様などの詳細を詰め、半年間に渡って準備を進めていきました。

そして開発会議当日、「ポメラ」のコンセプトを説明するも、経営陣の反応はいまいちでした。
「こんなもの何に使うんだ」「メモをするだけの商品なんて必要ない」という否定的な意見が相次ぎ、もうボツになってしまうのか…というときに、当時の社外取締役が一言、「私はこの商品にいくら出してもいいから欲しい」と言ってくれました。彼は、出張で忙しく飛び回る中で、論文や本の執筆をすることが多く、重く、立ち上がりの遅いノートパソコンを持ち歩くことにストレスを感じていました。その不便を解消してくれる商品ならば、価格はいくらだっていいから使いたいと話してくれました。
“いくらでもいい”というくらい熱烈にほしいと言ってくれる人がいる…ということで、会議の空気が一変しました。他の役員たちも「自分は使わないけれど、日常的に物書きをしている人にはいいかもしれない」など、徐々に使用シーンなどが膨らんでいき、最終的には「ニッチな市場かもしれないけれどチャレンジしてみる価値はある」と、GOが出たのです。
こうしてやっと開発がスタートしました。

「ポメラ」発表後に起きた予想もしなかった反響

いろいろな課題に直面しながらも、約1年の開発期間を経て、やっと「ポメラ」が完成しました。とはいえ、まだソフトのバグなどの課題も抱えており、発表数日前までソフト開発者と工場にこもってデバックを続ける…という状況が続きました。
発表日には、記者発表会を行うことになっていたので、「たくさんの人に来て、触ってもらえる機会なのだから、少しでもちゃんとしたものを届けないと!」という焦りと危機感のほうが強かったかもしれません。その一方で、確かにいいものに仕上がっているという自信はありました。

発表会が始まってみると、とにかく来てくださったメディアの多さに驚きました。社内でボツになりかけた商品が、こんなにも注目されている…と感動を覚えました。記者の方々は普段から文章を書く機会が多いので、商品のコンセプトに共感してくださったのかもしれません。発表会の直後から次々に熱のこもった記事がアップされていきました。
それだけではなく、その記事を見た一般の方々が2チャンネル(現:5チャンネル)に「ポメラ」のスレッドを立ててくださり、次々と商品への期待感や意見を書き込んでくださったのです。その反響の大きさには大変驚きました。
発表会の打ち上げをしながら、開発メンバーや広報など、みんなでその反響をリアルタイムで見ながら盛り上がりました。パートナーとなってくれたメーカーや、最後までソフトの改良に付き合ってくれた担当者にも電話で報告をし、一緒に「ポメラ」の反響の大きさを共有しました。
この日の出来事は本当に企画開発冥利に尽きるというか、「こういうことをやりたくてキングジムに入社したんだった」と初心に立ち返らせてくれました。 あの日以上の感動は、今でもないですね。

「ポメラ」の進化に思うこと。この先の「ポメラ」とは?

こうやって、大きな反響をいただいた「ポメラ」が実際に発売されると、もともとは「手軽にメモがとれるデジタルなメモ帳」といった商品が、記者やライターの方、小説家さんなど、きちんとした文章を作る人にも手に取ってもらえたことがわかりました。
想定していた以上の使い方をしてもらっている、もっと便利に使っていただきたいと思い、ユーザーの皆さんの声を最大限に反映して『文章を書く』ための機能だけをひたすら見極めて、ブラッシュアップを続け、コンセプトからぶれずに純粋な進化を続けてきました。

DM10、DM20、DM100、DM200…と新しい機種を次々に送り出してきましたが、文章を書くことに特化してきた「ポメラ」は、すでにただのデジタルメモ帳ガジェットではなく、文章を書くための「筆記具」のような存在になってきていると思います。「ポメラがないと困る」という熱いメッセージをいただいたり、「ポメラ」で書かれた作品が世に出て、多くの人に感動を与えていたりするということが、本当に嬉しく思っています。
「ポメラ」の最上位モデルであるDM200は、考えられる必要な機能は搭載し、現時点での完成形になりつつあると思っています。しかしながら、これまでのようにユーザーの皆さんからの要望が届いてくるはずなので、これからも少しずつ改善しながらモデルチェンジしていってくれたらと思っています。

「ポメラ」の10周年にあたって

もう10年も経つのか…と感慨深いですし、10年も1つの商品が皆さんに受け入れられ続けているのは本当に嬉しいことだと思っています。
私自身は、今でも「ポメラ」で、社員との会話をメモしたり、ちょっとした考えを書き起こして頭を整理したりと、当時の“デジタルメモ”の用途で使い続けています。
「ポメラ」はキーボードでひたすらテキストを書き込むだけの商品です。

文章を書くのが好きな方、キーボードをたたきながら頭の中のものをアウトプットしたい方にはうってつけのアイテムです。「ハマる人にはハマるし、ハマらない人にはどこまでいってもハマらない」というニッチな商品ですが、今後もコンセプトをずらさず、「文章を書くこと」に特化した、エッジの利いた商品であり続けてほしいと思っています。